書き出し
科學は呪うべきものであるという人がある.その理由は次のとおりである.原始人の鬪爭と現代人の戰爭とを比較して見ると,その殺戮の量において比較にならぬ大きな差異がある.個人どうしの掴み合いと,航空機の爆撃とを比べて見るがよい.さらに進んでは人口何十萬という都市を,一瞬にして壞滅させる原子爆彈に至っては言語道斷である.このような殘虐な行爲はどうして可能になつたであろうか.それは一に自然科學の發達した結果に他ならない.であるから,科學の進歩は人類の退歩を意味するものであつて,まさに呪う...
初出
1948年
(「自然」1948(昭和23)年3月)
底本
「自然 300号記念増刊 総収録 仁科芳雄・湯川秀樹・朝永振一郎・坂田昌一」中央公論社, 1971(昭和46)年3月20日