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5分以内で読める今野大力の短編作品(2ページ目)

青空文庫で公開されている今野大力の作品の中で、おおよその読了目安時間が「5分以内」の短編118作品を、おすすめ人気順に表示しています。

(〜2,000文字の作品を対象としています。読了時間は「400字/分」の読書スピードで計算した場合の目安です)
51〜100件 / 全118件
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彼のアジトには東郷大将の肖像が壁にはられていたそれからあの「皇国の興廃此一戦に在り各員一層奮励努力せよ」という同じ東郷大将の筆蹟もあった彼の家に二度三度サーベルがやってきてこれを見て行ったし近所のおしゃべり女房が窓の外からこの平凡な風景を見て行ったしどうやら東郷大将は彼のために煙幕作業をやっている日露戦争の折には人民の敵ツァーの艦隊を全滅させてロシアに革命を早くさせたとい...
痩たる土壌をかなしむなく遠き遍土にあるをかこつなく春となれば芽をだし夏となれば緑を盛り花を飾る貧しく小さくして尚たゆまずただ一つ秋、凡ての秋においてただ一つ種を孕んだわが名知らぬ草精一杯に伸びんとして努力空しく夏のま中炎天のあまり枯死してしまったものもある草にして一生は尊い生命の凡てである一つの種は一つの種をはらんだそして遍土の痩土に初冬のころ雪を戴き埋れ、静かに待ってい...
大いなる家鴨の姿に似たる連絡船の三等船室にて不愉快な動揺を感じ軽い頭痛に悩まされ渡り行く島の奥地に痛み悩む母への哀切に泣きつつひとりし寝転べば出稼人夫等の行く先々の未だ見知らざる地への憧れに満ちたる足に触れ最初は驚き縮んだ私ではあるが夢を持たない旅人のあらぬことをしみじみ我ながら感じては貧しき出稼労働人の心にもろくも兄弟達の涙を感じ足を伸べ組み添え瞳を交し微笑さえ見せて無言の...
アメリカは正義人道を看板にして非道な国際を売ってしまった排日は夢の日本に対するしくみだ、あなどりだ夢も幻ももたないトラウベル、ホイットマンを理想の詩人に祭りあげたアメリカ人資産の外にはのぞみもない彼等は貧しい夢の日本なぞ用もないあたり前の成行きだああ、ただ悲しい事実があるそれは偽られた同胞のクリスチャンだアメリカが偉そうにするもんだからそうかしらと思って信じたそれが一枚看板をはいで終えば...
津軽の海風は暮れ行く夕日の彼方へと連絡船を冷たく吹き送る桟橋に立ち去り兼ねて見送る人々とも別れて身をマントに包み頬をうずめて物蔭甲板に佇めば防波堤に点る明滅の灯火も見えずなり巍然たる函館山の容姿も次第に海をへだてて水夫の投げこんだ速度計の速めらるるままに闇の中に失われゆくかくて海峡の海は次第に荒く空よりは白き贈り物音もなく真闇の中に降り来り、海に消えマストに積る船は船底にひびくエンジ...
寝室とも書斎とも名附け難い私の室ここで私は私の好きな事をする私の家は小さな家である北国のヌタプカムシペ山脈の畔である上川平野の隅であるチュウベツを言うアイヌ人種が五十年の昔鹿を追い熊を追い狐を追った処である今まだ太古の伝説鮮やかなる殖民地の一小邑である私はここに住んでいるそして小さな安らかな新しい材木の香のする家に父母があたえた、ささやかな幸福をひたぶるに恋してゆっくりと味わ...
友よわが一人の愚かなる人間の為めに秘かに鏡を用意して呉れ給い((ママ))そこに一人の狂人がいる彼は真紅の夢を胎むことによって恋をする愚かな狂おしい男である彼の室は赤壁の地図も赤彼の思想も赤赤赤赤点々点々ベタベタ赤色の中に芽ぐむ一人の生友よ彼は横臥することを好む今こそ彼に鏡を与えよおおそして見ろ!彼の狂態が初まるのだ!...
遠い野中の家より私を慕うて呉れる友は今夜も十時がなって帰った夜露を分けて来て呉れてもあたたかいもてなしさえ貧しい私達にはゆるされずひとえの着物のはじを幾度か合せ乍(なが)ら語りても聞いてもほほえみ乍ら何程のへだてた思いもなくありのままの事を語らいてお互に解け合うよろこび本箱からは勝手なものをとり出して入れ様ともせず一ぱいに机の上につまされる傍にも又誰ひとり...
*小川は濁っているヤマメ、イワナのようなうまい小魚はもうそこへはのぼって来ない淀みにはどぶ臭い雑魚が居り廿年の昔の清冷な流れの面影がない*連なる丘陵はただ禿山であり焼けたエゾ松の根株が淋しく黒く佇んで居り昔そこに美しい針葉樹林があり楡、タモ、栓、楢、紅葉、桜、胡桃、白椛の林があって小鳥や兎達の楽しい場所であったことはきれいに忘れ去られている*部落の人々は何...
あらゆる所有の王国に呪いあれ*万民平等なる母体の胎児たりし時卿等に所有の観念の兆せしや否や我古代より現代に至る社会の変遷による人々の苦悩は個人があやまれる自由の曲訳により所有の観念のあやまれる故なりと断ずるなり*自由とは何ぞや*あらゆる個人の所有を許さざる万民平等の時神人等が私慾の一点も加えられざる処これあるのみ*我ここに按ずるに所...
古典の縁起を語れる大楼門の右にて感ずるは極めてあわれなる庶民等が心中ぞ土に生くるものの幸を忘れて自己等が建つるこの寺院に拠り魂のざんげをせん人々のかなしさぞ*鳥けものの屍(しかばね)土に在りて此処は人の香もせざりし頃より未だ幾年を経しか魂は未だに限りもなく深山幽谷の彼方に憧れあるに愚かなる望郷の者達はここにあり往かんとせじせめては古典のめぐしみに会せんとのみ願えるか我等北国の叢生...
どこからか捲き起された風渦になり、平になり、縦になり吹きまくってゆく、突風!疾風!屋根柾が矢のように走ってゆく塗炭板がぐうおうと引ぺがされて空をうなりながら飛んでゆくぐう、おう、ひゅうひゅう、おう、ぐう物凄い力となって粉々と雪を掻(か)っ飛ばして平原を十数丈の高さでぐんぐんと押よせる風陣!街の中も、原っぱも、村の街道も猛火のような怒りと憎しみに燃え立って前面に押し出し流され...
ポプラの梢の空高く大空を指さして厳かな聖き自然の力を表わす幹はだの荒くれた並木の下にヘブライ文化の主流であるキリスト教の教会堂が建っている私は毎日その近くを過ぎるそして神秘な古典の物語りを思い出し、ありし昔の日の幾多重ねた争闘の人間に与えし歴史を憶う……人間と言う極まりない霊魂の所有者はかくして永遠に血を浴びて闘わねばならないか宇宙の覆滅人類の滅亡ああその日までどんな歴史を作るであろう今...
露西亜の船の沈んだ片身に残したと聞く石を抱いてわれは又ある日のざんげをするか函館山は高く要塞地として秘密を冠るおごそかな壮大なる岩礁の牢たる屹立は東方に面して何をひそかに語りつつあるか黒鳥のあまた岩に群がり波に浮び魚を捕うかつてここら立待岬のアイヌ達は魚群の来るを銛(もり)を携えて立ち待てりと伝う東海の波濤のすさまじく寄せ打つ処崖上の草地にマントを着たる四五人の少女等寝そべり...
お前は俺の子供おれはお前の父親おれはお前の親となって六月だお前は生れた時この頭がおれの握り拳位だったずい分と大きくなったなお前の顔がおれに似て居るようだし今添寝して居る母にも似て居る誰彼がそう云ったそれはほんとうだろうかねむったお前お前は今ずい分よくねて居るさっきはあんなにおれに困らせたんだが母の乳房に乳がなくなりゃお前にとっては全く一大事だから泣いて泣いて...
生かさせたいがもうおそい両肺が全部やられている猛烈な腸結核で一日の膿の排出は多量でちっとも消化力ない胃腸痔が悪くって腎臓も悪くて耳が悪くてもう全身あますところなく悪化しているこれは医者が言うのだ、そしてあと一月かどうかとすら公言する熱が四十度をこえる味覚は破壊されて食慾が全くない食慾がなく熱を出して毎日肉をけずっていればやがてけずる肉のなくなった時...
色づく木々の丘の上の林へ今日一日私は出かけためずらしい晴天である葡萄の葉と楡と、楢と栓とそれらみんな色づいて来た最早すべて葉を落したものもあるつたをたぐって丘に登る時私は愉快である登って見下せば又愉快であるみごもった稲田を広い平野の端から端へ見てゆくのも愉快であるいろんな野菜の収穫の終った畑も今は黍と芋蔓がしょんぼりと残っているのみで、麓の清い澄んだ流れは紅い木の葉を浮べて流れている木の...
始皇よ長城の如けんうねうねと連らなる山脈駅路より駅路へ人は人をたよりて母を父を子を友を同胞を旅するものの心つたえて赤き逓送車のまわりゆくまで極みなき地平の物語り出る物語り丘に上り我は今日も駅逓の旗を見ん(郷土は峡谷に馥郁(ふくいく)たる香の花を秘めて知られざる時代に埋もれゆくよ)太古の儘なる森林に入りてもの思う男もあり禿山の頂に立ちて山脈の彼方なつかしの海に...
おまえはまだ立っているか力強く立っていようとするか風は吹いても地はゆらいでもおまえはまだ立っていようと願い((ママ))るか*久し振りで地に親しむ事の出来た土へのおまえの愛はまことに美しいものだけれども今はおまえの執着はおそろしいものだ*あくまで地に立っている事はあくまで反逆の意味がふくまれている、真実に地を愛し慕うならばおまえは立つ事をやめねばならないおと...
街の子は今日も遊んでいたそしてふと子供の一人が大声で言った「やあいキョウサントウ!」いい声だそしていい言葉だ空間は完全にこの声に貫かれた「やあいキョウサントウ!」鬼ごっこで仲間の一人が捕ったので思い出したこの言葉だが、これはただの言葉でない、街の子が言うほどの遊びながら呼ぶほどの捕まったので思い出したほどの言葉なれどこの時代にはこの言葉に総身の毛をよだてている人間がいるのだその時ふと。
小さな高窓高窓に見える青空この青空に走っている無数のラジオの声ブル共はそのラジオで相場の上下を語り奴隷の歌をうたわせながら満洲パルチザンの活動に驚愕のニュースを飛ばし国際聯盟の脱退を問題にしているだろう、だが、それよりおれたちのこの小さな高窓に見る青空にはすべての日にあのモスクワのコミンターン(国際共産党)の大放送塔からおれたちプロレタリアのために闘う世界中の同志の耳へ輝きにみちた勝利のニュース...
貴族の表情をこさえるためにハルピンの白系露人の女はジーッと物を見すえてうっかり動揺の見にくさを見せまえ((ママ))とし、古い宝石の腕輪や首かざりやピンに品物以上を物語らせようとし、窮屈なほど口元をすぼめて上品さを見せんとしている。
旗がしきりにゆれているハタハタと、又ハタハタと時には風が吹いて来てゴトンと音を立ててゆく外はほんとに暗いのだ自分よ、或る夜の事を思い出せそしてぞうっと身ぶるえ((ママ))せ今夜の雪は青白いすごい黒さが沁みている2海の妖婆が踊るよな暗い恐ろしい夜となる日本海と太平洋の沖の方に何か変りはないだろうか。
一疋の足の細長い昆虫が明るい南の窓から入ってきた昆虫の目指すは北薄暗い北病室のよごれひびわれたコンクリートの部厚い壁、この病室には北側にドアーがありいつも南よりはずっと暗い昆虫は北方へ出口を見出そうとする天井と北側の壁の白堊を叩いてああ幾度往復しても見出されぬ出口もう三尺下ってドアーの開いている時だけが昆虫が北へぬける唯一の機会だが、昆虫には機会がわからず三尺下ればということもわからぬ一日、二日、...
住み古した父母達の家に父母達の顔にきざんだ皺をかぞえることなく老いたる父母達の苦難な生活の有様を覗(うかが)い見ることなく俺の健康な顔を見せガッシリとしてきた手を差のべることなく街の中に幾百万の人民の中の一人となり父母達の家を数々の家々とひとしく見過して立去るおもい、逢わねば心細くもあり語らねば物がなしくもあるわが子をはげましわが子を階級戦の熾烈なさ中へ送る意気込みはなくとも、...
何て騒々しい声だろうこの場合の人間の泣声は決して同情に価しないあれはちいちゃい四つの女の子の泣声だが可愛そうにも考えられないただうるさい騒々しい泣かないでくれればいいもう沢山だ心の中でいくら願ってみたって何にもならぬ子供は少し熱があってからだがだるくって消化不良のせいでもあるし気分が悪いんだ、どれを見てもきいてもいまいましいのだ、よっぽどよっぽど気分が変らない限り...
(1)行け!私達自然の教徒よ高く高く燃え燃ゆる自然の精霊の上へ人間の生命の魂を燃え((ママ))べくして燃えざりし炬火を天日の情熱に投げこんで紅蓮の焔を眺めつつ歌え、歌え、輝かせよ(大地よ、ゆるぐべきものよ古哲の教授よ何と皮相なよろこびなる草ものびる、私も育つああ、生長への伴奏よ葬送への奏楽ぞ)(2)行け!私達一切への戦士よ異国のはるかにへ...
私のいる家の東方に窓があった私は農家の二階に間借りして幾十日かを過す身であった私は自分の起居に不自由の身をそこに運び、ひたすら、健康の日を恋していたのである、かがやく健康の美しさは私の希望であった私は東方に追憶の瞬間を持つ私の室の東方の窓はそこへの視野を展開しているハコネの連山は眺望の彼方にある山脈の起伏は無言に昨日も今日も変りはないがただ風に送られる雲の往来と空色の変化とを発見する、雲の彼方橙...
慰める様なぬるい南風に衣をなびかせなびかせ大地の精が臥している小高い丘の殺風景な(けれども希望に輝いた)処で大地の精はつぶやいているああ古風な幻想よ大地は忍従の革命家秋を送り冬を迎え地上すべて荒廃に帰せしめ殺した大地の世界から生命を呼びま夏の新緑あふるる青さを生む(かくて神話の世紀から幾代の力を創った事か)丘は今安らかな暁方の眠りを求める朝早く営舎を出でて美しい若い兵士が...
もったいない事である肺患者の残した実に多量の食物は惜し気もなく捨てられる鮭の照焼や筍やうどふきのうま煮なんか多くの人々にとって大した御馳走なんだのに一椀の飯さえ思うように喰えぬ人々が見たらおおめまいしてしまいそうな食物の山山近所の豚がこの滅多に人間さえ食べないものをうんと腹一杯たべてコロコロに肥っている豚が肥えて肉屋に並べられてもそれが何とか西洋料理支那料理になっても豚の食う程のもの...
相当にぎやかな街の電柱の下のベンチに素晴らしい将軍が休んでいる私は写真を見てそう思ったが、この老将軍は前歴が何だかわからないただぶくぶくした襟毛つきの厚っぽたい外套をきて帽子はないがない方がずっと素晴しい頭髪やヒゲを効果的に見せるし眉毛でも普通の人間とは凡そ縁遠い逞(たく)ましくゆかりあり気な一人の人物と見えるだがこの老将軍は白系露字の新聞売である日本人には驚くだけである同じベンチにも一...
療養所の看護婦はいつも廊下をみがいているドアーのハンドルをみがいているいくらみがいてもピカピカ光る程この療養所の建物は新らしくないそれでも毎日看護婦は廊下をみがきハンドルをみがく主任が真先に立ってやって見せるし主任の命令がきびしいので看護婦は今日もみがきやになってる病室に入って病室のうすきたなさはちっともきれいにされない病室には廊下など歩くはおろか半身を起せぬ患者が呻吟して居...
小金井の桜の堤はどこまでもどこまでもつづくもうあと三四日という蕾の巨きな桜のまわりはきれいに掃除され、葭簀張りののれんにぎやかな臨時の店店は花見客を待ちこがれているよう私の寝台自動車はその堤に添うて走る春めく四月、花の四月私は生死をかけて、むしろ死を覚悟して療養所へゆくすでに重症の患者となった私はこれから先の判断を持たない恐らく絶望であろうとは医師数人の言ったところ農民の家がつづく古い建物が多く...
おお我胸の苦しさよ幸福は失われたおおそうだ、幸福は輝き渡るかなたの山より朝日の出づると共に潮のように寄せて来た然し幸福は私の手元にいる事を拒んだ、又引潮のように夕べには次第々々に失われていった私は考えている失われた幸福の私を避けた理由を私は青ざめている不幸にみいられて苦しい事もかなしい事もみんな私をなやませて一息の安らかな呼吸さい((ママ))あたえられない故に...
小がらで元気がみちみち眼と口と顔の据えられた位置がやや水平の彼方の空に向い希望の、言葉ではなし、文章ではなし、絵でもなしただ五尺たらずのからだにみちみてる熱意ある要求の表情。
チビコは今年三つになりました、チビコのお父さんは肺病でねています、チビコのお母さんは又稼ぎに行くと言っています、稼がなければ喰べられないからチビコはある晩ばあちゃんに抱かれてねながら「メメが痛いメメが痛い」とパッチリ目あけたまま泣いて泣いて眠りませんでした、そして翌日、ゲッゲッと食べ物を吐き出しました、メメは目ではなく腹のようでした、「チビコお父っちゃんあるかい」「ある」「チビコのお母ちゃんバカだね」...
私の病室は十三号の乙寝台は三つ満員二人は施療で私は有料一人は堅山と三十越えた男三年全くこのベットにへばって暮しるいれきで首の周囲は膿の出た跡赤い肉が盛り上って此頃も両脇の下から膿がしきりに流れている肺の方も相当の(ママ)進行しているその咳こむ凄さは恐ろしい俳句を毎日作っているも一人は鈴木二十二歳堅山にこの小僧ッ子は生意気だと泣きながら散々の悪口を言われた男一月ばかり前に三千グラ...
雪に埋れ吹雪に殴られ山脈の此方に俺達の部落がある俺達は侯爵農場の小作人俺達は真実の水呑百姓俺達の生活は農奴だ!俺達はその日隊伍を組んで堅雪を渡り氷橋を蹴って農場事務所を取巻いた俺達はその日の出来事を知っているその日俺達の歩哨は喇叭(らっぱ)を吹いた喇叭の合図で俺達はみんな見分の家につんばり棒をおっかって家を出た俺達の申し合せは不在同盟!...
生と死の路は今自分の行手にあり自分はこの全き方向のちがった路の何れを歩んでいるかを知らない歩む路は一すじただこの一すじが生命の歓喜へ向っているかまた永遠の死へ辿っているか自分にも解き得ざる謎謎の日は今、日毎つづきつつあるだが博士は言った「半年か一年か保証は出来ないがね」ここで自分の歩む路は死だと予断されているも一人の博士はただ眉をひそめて「生死の問題よりも苦痛よりのがれる方法を」と自...
母を飢えさせ妻子を飢えさせ幼き弟を稼がせてどうやら俺のいない家が保たれている「飢死の自由」は九尺二間の長屋を占領し共同井戸の水さえくさってまずい芋を煮て仏壇に捧げようとも心から、真に生命の極から諦めぬうらみをこめて手向けとなり俺が死なないようにむざむざとうらみの手に殺されないように無言のいのりがひそんでいる平和な家庭――生活、平和な生存、おしゃべりなしの真剣な愛、...
教壇もない机もない椅子もない教師の握る鞭もないこの学校には粗末なベットがありベットは二十幾つも並んでベットの上には自分の肺をくさらせた青年がねている一九三四年の日本の東京で貧窮に過労に困苦に生身の肺を病菌に喰(くら)わせて遂にいく月もいく年もここのベットにねたきりとなる。
太平洋の島国へ一つの智恵が送られてきた智恵をあふるるばかりにくまなく抱く本が送られてきた智恵はまもなく人々のものとなりかけたしかしこの国の人々はその智恵をいろいろに受けとった誰がこんなことをしたのかある頁が破かれていたある頁に加筆されていたある頁は抹殺された、ある頁は巧妙に張りかえられた真実は偉大なる真実は遂に万人のものとなり得なかった多くの人々のもとへは片ちんばの智恵が走りこみ眼っかち...
小樽から来た小林が殺されたんだと親に教えた俺だったやられたかやりやがったか一日も二日も三日もねむられぬ憎っくい下手人××の手先小林が元気な頃は又逢えるつもりでいたのに殺されて二度と逢い((ママ))ない二度と逢い((ママ))ない小林をとらえた刑事抜けがけをやろうとしたか全身の皮下溢血が無残な姿犬や猫や豚を殴って殺してもこんなに無惨に...
「引け!」イチニ、イチニ、イチニ雨が降る秋に降る冷たい雨、落葉を叩く頬を打つ流してはならぬ涙の様イチニ、イチニ、イチニ中途でぐうんと引かかる、よろ、よろ、よろ、重たいゆるがぬ万億の重量「止まれ!」班長、ちっとあおそすぎないか六人の肩に絨衣を通して肩に割り込む兵士の綱グレンの代りに使われる架橋工事の兵士達雨の中、川をこいで綱を引く「初め!」イチニ、イチニ、イチニする...
濃緑のあかだもの木の下にて三十を越えた四十あまりの人の話をきく二十余年北国の地に流浪して絶えず山水に親しみながら生活を続けて来た人の話である面は陽に赫(や)けているひげはおとなしくあご一面にぼうぼうと生えているアイヌとも妥協して或は独木舟に乗り激流をさか上った事もあると言う熊狩りに魚捕りに野に山に宿した事もあると言う長い半生にありし物語のさも面白そうな話ぶりち...
地図を見ればここは伊豆伊豆の温泉、伊東の町熱海より五里余汽車もなければそびえ立つ岩肌を穿(うが)ち堀りけずり辛くも自動車の往来するこれこそ羊腸の道怪異の岩礁出でて緑の松腰を折ればそこは眺望絶佳といわれてラムネ、レモンを売る腰掛茶屋も並びあり異人の女一人遠き伊豆の山肌を写しており伊豆の山の美しさはわれをして故郷にある貧しけれど情みつる母の心情のうるおいを憶しめ病児を...
かつて私は悪事をやった立場に立たされた時こう憎々しげに吐きつけられたものだ、「胸に手を当てて、よっく考えて見ろ!」私は今、胸に手を当てて静かに激しく想っている。
蒔付時に子を生んであせって起きて働いて足腰立たなくなったという姉よ何たる不幸ぞや病気をした時神主に拝んでもらって紙っ切れを水でのまされてそれでなおらば、お安いけれど去年□(一字不明)死んだ妹を姉よまさかに忘れまいあの妹が死んだ時足は青んぶくれ顔はまんまるお盆のよう眼が見えなくなったきり、最後にはわけのわからぬあれこれを大声でわめいたっけあ...
そこにこうかつな野郎がいるそこにあいつの縄工場がある縄工場で私の母は働いていた私の母はその工場で十三年漆黒い髪を真白にし真赤な血潮を枯らしちまった私の母はそれでも子供を生んだ私達の兄弟は肉付が悪くって蒼白い私達は神経質でよく喧嘩をした私達は小心者でよく睦み合った私達の兄弟は痩せこけた母を中心に鬼ごっこをした母は私達を決して追わない母はいつでもぴったりと押えられた私達は結局母の枯...
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