雷峯塔物語

田中貢太郎

漁師の勘作はその日もすこしも漁がないので、好きな酒も飲まずに麦粥を啜（すす）って夕飯をすますと、地炉の前にぽつねんと坐って煙草を喫んでいた。

田中貢太郎

村に一人の男があって梨を市に売りに往ったが、すこぶる甘いうえに芳もいいので貴い値で売れた。

田中貢太郎

序記国土成生の伝説大正十二年九月一日の大地震及び地震のために発したる大火災に遭遇して、吾吾日本人は世界の地震帯に縁取られ、その上火山系の上に眠っているわが国土の危険に想到して、今さらながら闇黒な未来に恐怖しているが、しかし考えてみれば、吾吾は小学校へ入った時から、わが国土が地震と火山とに終始していて、吾吾国民の上には遁（のが）れることのできない宿命的な危険が口を開いて待っているということを教えられていたように思われる。

田中貢太郎

日本には怪談はかなりあるけれども、其の多くは仏教から胚胎した因果物語か、でなければ狐狸などの妖怪であって、独立した悪魔のような物語はあまりない。

夏目漱石

上先生と私私はその人を常に先生と呼んでいた。

宮沢賢治

一、午后の授業「ではみなさんは、そういうふうに川だと云（い）われたり、乳の流れたあとだと云われたりしていたこのぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか。

夏目漱石

吾輩は猫である。

太宰治

はしがき私は、その男の写真を三葉、見たことがある。