30分以内で読める吉川英治の短編作品

思い出もいまは古い、小紋の小切れやら、更紗の襤褸（つづれ）や、赤い縮緬の片袖など、貼板の面には、彼女の丹精が、細々と綴（つづ）られて、それは貼るそばから、春の陽に乾きかけていた。

たれかがいま人間性のうちの「盗」という一部分を研究対象としてみたら、近頃ほどその資料に豊富な世間はないだろう。

ひとくちに紅くさえあれば紅梅といっているが、あの紅さもいろいろである。

寧子は十六になった。

本誌（大法輪）の二十五年に因んで、僕の二十五歳頃を語れと仰っしゃるんですか。

眼がしぶい、冬日の障子越しに、鵙（もず）の声はもう午近く思われる。

飯櫃十八になるお次が、ひとつの嫁入りの資格にと、巣鴨村まで千蔭流の稽古に通い始めてから、もう二年にもなる。

熟れた柿が落ちている。

持ちもの嫌いひとにはバカげていても、自分にはゆるせない潔癖がたれにもある。