書き出し
営舎の高窓ががた/\と揺れるばったのやうに塀の下にくつゝいてゐる俺達の上を風は横なぐりに吹き芝草は頬(ほゝ)を、背筋を、針のやうに刺す兵営の窓に往き来する黒い影と時どき営庭の燈(ひ)に反射する銃剣を見詰めながらおれは思ふ、斃(たふ)されたふたりの同志を同志よおれは君を知らない君の経歴も、兵営へもぐり込んで君が何をしたかも兵営の高塀と歩哨の銃剣とはお互の連絡を断ってしまったおれは君たちがお...
初出
1932年
(「大衆の友」1932(昭和7)年4月号)
底本
「槇村浩詩集」平和資料館・草の家、飛鳥出版室, 2003(平成15)年3月15日