書き出し
ひるさがりとある大門のそとでひとりの坊やがグライダアを飛ばしてゐたそれが五月の八日でありこの半島に徴兵のきまつた日であることを知らないらしかつたひたすらエルロンの糸をまいてゐたやがて十ねんが流れるだらうするとかれは戦闘機に乗組むにちがひない空のきざはしを坊やはゆんべの夢のなかで昇つていつた絵本で見たよりも美しかつたのであんまり高く飛びすぎたので青空のなかでお寝小便し...
初出
1942年
(「国民文学」1942(昭和17)年7月号)
底本
「〈外地〉の日本語文学選3 朝鮮」新宿書房, 1996(平成8)年3月31日