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5分以内で読める中野鈴子の短編作品

青空文庫で公開されている中野鈴子の作品の中で、おおよその読了目安時間が「5分以内」の短編15作品を、おすすめ人気順に表示しています。

(〜2,000文字の作品を対象としています。読了時間は「400字/分」の読書スピードで計算した場合の目安です)
1〜15件 / 全15件
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小林多喜二のお母さんあなたの長男である多喜二さんが死なれてから十九年の日が流れていますそしてあなたは八十才になられましたこの十九年の年月はお母さんにとってどのようなものでありましたでしょう戦争が敗けて日本共産党の人たちが赤い旗をかかげて刑務所から出てきた時あなたの喜びとかなしみはどんなでありましたでしょうその人たちが子供も育っている家庭を形作っているのをながめられたときのあなたの気持...
お前は此の頃よくねむる朝もなかなか目が覚めない若いお前には深いねむりが必要なのだお前よお前は母の手に返ってきた日本が敗けたときお前はわたしの子供となったお前が生まれたときはじめてねむったあの時の母子のようにわたし自身によって生まれた子供として母の誇りをもって抱くことのできる何と言う喜びぞわたしは乳をしぼった出ない乳をしぼり、つかれて痩せ夜もねむらずにお前を育てた育てた...
行ってしまったもう煙も見えない息子を乗せた汽車は行ってしまった剣を抜いて待ちかまえている耳や手足の指がくさって落ちるというそんな寒い戦場の×煙の中へ息子の汽車は走って行った生きて帰るようなことはあるまい汽車の窓のあの泣き笑いがおあれがあの子の見おさめなのか親一人子一人の暮らしであの子は毎晩わたしの夜具の裾をたたいてくれたいつもやさしい笑顔で働いてくれたああわた...
軍服をつけ銃を肩に立ち上がったこの姿を見よ沈着と決意に動かぬこの勢揃いを見よ彼女らの全身の血の集中!すべてを明日に未来にかけ今日立ちふさぐ我ら日本の女我らの目はあつく燃える正義と愛と憎しみとに波打つその立派なたくましい彼女らの整列の上に。
思っただけでも胸がおどる裸一貫のわたしらが堂々と乗りこんでゆきおおこのわたしらわたしらのタコだらけの手真黒に焼けたおでこただ一つの心臓二本の足二本の腕にあらゆる権力と最上の美しさを打ちたてる日働いて笑える働いて肥えるおおその日、その世界よ思っただけでも胸がおどる。
土も凍る夜友と二人炭のない部屋にねむろうとしているわれらの「戦旗」がいま二三の女の手にカギが渡され必死のこぶしを彼らの靴先が踏みくだこうとしている友の夫わたしの兄たちいく百の前衛は牢やいく千の兵士は満洲の戦場に狩り出され友と二人破れた雨戸の部屋にねむろうとしているガラスの窓に月が冴えて光る月は中天に輝々として。
都会、町、部落、何処にも朝鮮の人たち満ち溢れ働きたたかい生活を打ち立て話す言葉国語正しくわれら朝夕親密濃く深まりつつ出征、入営を送る折々には先んじて旗振り、万歳を叫ぶ朝鮮の人たち朝鮮の人等手に力こもり、唇は叫びつつ心の底に徹し得ぬものがあるならん常にわれかく思い心沈みし今朝鮮に徴兵制布かるこころ新たにあつき手を挙ぐ。
ある日市電ののりかえで待っていると一人の女の人がやってきた洋服も帽子も見たこともないような古い型で汚れて穴もあいている断髪の毛は赤ちゃけ木綿靴下の足がすりこぎのように弾力がない電車がきて彼女はわたしの前に向かい合った健康でないむしろやつれた細面のかおけれども目は生き生きとしてひとところを見ていた彼女はどんな過去を持っているのだろう風呂敷き包みをきちんとかか...
人間には幸福と不幸があるそれは何処からきているかみなもと深く学者はしらべた人々は自分に照りあわせ実際的に納得したけれども目ざす彼岸は高くあまりに遠いふしあわせは片時もはなれずつきまとう人という人はことごとく本能感情意志を持つ不幸は四六時中五感をつっさすみんなは生きるふしあわせとの組み打ちふしあわせは一様でないその千差万別をうたいたいことに普遍...
わたしは途中で一人の女とすれちがった女のかおは白粉と紅で白く赤く美しかった背が高くふっくら円かった年は二十三四そして藤色チリメンの長袖厚いフェルト草履の大股でトットッと歩いて行ったそれは大変に自慢そうでからだ全体が得意で一ぱいのようだったわたしは洗いざらしの浴衣を着て青じけた顔をうつむけて通りすぎたわたしは顔をうつむけて通りすぎたそうしてわたしは振りかえった振りかえった時わたしの...
わたしはこの頃しきりに考える自分というものについてわたしは下宿の二階に兄のくれる金で暮らしているそれはわずかな金だけれども兄の彼が夜ヒル書きつづける血のしたたりなのだわたしはそれで米や炭をととのえ腹を満たしているわたしの仕事は詩を書くこと、文学の途をゆくことになっているわたしは机に向かって本を読むあるいは書こうとするけれども書けないわたしはうっ伏して足りない才能をかなしむ心はたぎっても現わせないわ...
今日は一月一日今日は正月だ明けましておめでとうってたとえのようにいうけれどわたしらはそんなどころではないわ年がら年じゅう米つくるが商売なのに一片の雑煮もない毎年ただ一本きていた他国からの年賀状も今年は来ない来るものは町の掛取りや残りの年ぐ米を取りに来る地主の番頭だ台所はポチャンポチャンと雨がもる炭は買えずもみがらをぶすぶす燃やすくすぶり火が家一ぱいにひろがる七十五の婆は...
腹は凹んで皮ばかりのようだ口はほせからツバも出ない目はかすんでものが見えぬ三分作なのに地主はおしかけて来た来年の年貢をよこせとそして手をあわせて拝むわたしらを尻目にかけ一粒のこらずかっさらって行った毎日毎晩わたしらは夢中で外へ這い出たキョロキョロになって吹雪の中をかけまわった木の根をむしった草の芽をかんだ見つけ次第犬猫を殺し奪い合って食った腹がキリキリしたゲイ...
わたしの祖先は代々が百姓であった八町はなれた五万石の城下町ゆきとどいた殿様のムチの下で這いまわった少しのことに重いチョウバツ百たたきの音が夜気を破った天保に生まれた祖父はいつも言った百姓のようなつらい仕事があろうか味無いもの食って着るものも着ず銭ものこらん金づちの川流れだわたしの父母は五人の子供を育てた父母は子供を百姓にさせる気はなかった二人の男の子は五つ六つから朝晩瀬戸の天神様へおまい...
幸助けさ手紙をうけとったやっぱり達者でいてくれたかわたしは思わず手紙をおしいただいただもしやこの暑さでやられてでもいるのではないかと心配していたに牢やの中はどんなに暑いじゃろうねいそここそ地獄じゃもの夏は出来るだけ暑いように冬はなるべく寒いように仕掛けてあるんじゃろうさかいねコンクリで囲うた窓一つない箱みたいな建て物じゃと言うでないかようく障りなくいてくれた苦労ばかりかけてきたお母さんに...
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