書き出し
わたしの祖先は代々が百姓であった八町はなれた五万石の城下町ゆきとどいた殿様のムチの下で這いまわった少しのことに重いチョウバツ百たたきの音が夜気を破った天保に生まれた祖父はいつも言った百姓のようなつらい仕事があろうか味無いもの食って着るものも着ず銭ものこらん金づちの川流れだわたしの父母は五人の子供を育てた父母は子供を百姓にさせる気はなかった二人の男の子は五つ六つから朝晩瀬戸の天神様へおまい...
初出
1935年
(「大鼓 第一巻第一号」現代文化社、1935(昭和10)年11月1日)
底本
「中野鈴子全詩集」フェニックス出版, 1980(昭和55)年4月30日