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三好達治の全作品

青空文庫で公開されている三好達治の全作品52篇を、おすすめ人気順で表示しています。

1〜50件 / 全52件
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春の岬春の岬旅のをはりの鴎どり浮きつつ遠くなりにけるかも[#改ページ]乳母車母よ――淡くかなしきもののふるなり紫陽花いろのもののふるなりはてしなき並樹のかげをそうそうと風のふくなり時はたそがれ母よ私の乳母車を押せ泣きぬれる夕陽にむかつて※々(りんりん)と私の乳母車を押せ赤い総ある天鵞絨の帽子をつめたき額にかむらせよ旅いそぐ鳥の列に...
鴉靜かな村の街道を筧が横に越えてゐるそれに一羽の鴉がとまつて木洩れ陽の中に空を仰ぎ地を眺め私がその下を通るときある微妙な均衡の上に翼を※(をさ)めて秤(はかり)のやうに搖れてゐた湯沸したぎり初めた湯沸し……それはお晝休みの小學校の校庭だ藤棚がある池がある僕らはそこでじやんけんする僕は走る僕は走る……かうして肱をついたまま夜の中にたぎり初めた湯沸し……靜夜柱時...
玻璃盤の胎児生れないのに死んでしまつた玻璃盤の胎児は酒精のとばりの中に昼もなほ昏々と睡る昼もなほ昏々と睡るやるせない胎児の睡眠は酒精の銀の夢にどんよりと曇る亜剌比亜数字の3だ生れないのに死んでしまつた胎児よお前の瞑想は今日もなほ玻璃を破らず青白い花の形に咲いてゐる[#改ページ]祖母祖母は蛍をかきあつめて桃の実のやうに合せた掌の中から...
友よ友よ四年も君に會はずにゐる……さうしてやつと君がこの世を去つたのだとこの頃私は納得したもはや私は悲しみもなく愕きもなく(それが少しもの足りない)君の手紙を讀みかへす――昔のレコードをかけてみる。
雪はふる雪はふる聲もなくふる雪は私の窗の半ばを埋める私の胸を波だてたそれらの希望はどこへ行つたか――また今宵それらの思出もとび去りゆく夜空のかぎり雪はふる雪はふる雪は思出のやうにふる雪は思出のやうにふるまた忘却のやうにもふる。
十一月の夜をこめて雪はふる雪はふる黄色なランプの灯の洩れる私の窗にたづね寄る雪の子供ら小さな手が玻璃戸を敲く玻璃戸を敲く敲くさうしてそこに息絶える私は聽く彼らの歌の靜謐靜謐靜謐。
雪どけの峽の小徑を行く行く照らしいだすわが手の燈火黄色なる火影のうちを疲れて歩むあはれわが脚の影重い靴濡れた帽子冷めたい耳空腹――旅人と身をなして思ふことさへうつつないああこのひととき。
[#ページの左右中央]この小詩集を梶井基次郎君の墓前に捧ぐ[#改丁]砂上海海よお前を私の思ひ出と呼ばう私の思ひ出よお前の渚に私は砂の上に臥よう海鹹からい水……水の音よお前は遠くからやつてくる私の思ひ出の縁飾り波よ鹹からい水の起き伏しよさうして渚を噛むがいいさうして渚を走るがいいお前の飛沫で私の睫(まつげ)を濡らすがいい鶯「籠の中にも季節は移る私は歌ふ私...
仔羊海の青さに耳をたて圍ひの柵を跳び越える仔羊砂丘の上に馳けのぼり己れの影にとび上る仔羊よ私の歌は今朝生れたばかりの仔羊潮の薫りに眼を瞬き飛び去る雲の後を追ふ雷蝶雷の後かみなり蝶が村へくる村長邸の裏庭の百合の花粉にまみれてくる交番のある四辻で彼女はちよいと路に迷ふさうして彼女は風に揚る椎の木よりもなほ高く火ノ見櫓の半鐘よりもなほ高く海邊雨後の横雲...
ああ海から昇る太陽太陽今しののめの藍と薔薇との混沌を蹴破つて昇る太陽かの紅のかのまるく大きなるかの重たげなるもの虚空のうちを押渡るかのまぶしきものかの團々たる黄金光の聖母胎ああかの今わが涙にまでそのほのかなる暖かみもてもの言ひかくるもの太陽おお太陽海から昇る太陽われ永くおん身の朝ごとにそこに在りてかくまるく大きく赤くわれらが遊星の空...
人形のをぢさん守屋三郎さんは、支那文学の奥野信太郎さんと漫画家の横山隆一さんとの丁度中間位の恰幅であつて、容貌はどこやらそのお二人に似てゐる。
ケシの花はマリー・ロランサンの絵を思はしめる。
霾冬の初めの霽れた空に、淺間山が肩を搖すつて哄笑する、ロンロンロン・※ッハッハ・※ッハッハ。
この一隅に秋立つ日楓の幹を蟻が上る急げ急げ夕立がくる鳴神は隈取りをして灰色の兩手を擴げて――軒端を蜂が飛んでゐる。
課題に従つて以下万葉集の恋歌に就て少し卑見を記してみる。
万物の蒼々たる中に柘榴の花のかつと赤く咲きでたのを見ると、毎年のことだが、私はいつも一種名状のしがたい感銘を覚える。
なにがしの書物を持ちて君を訪ふ慣ひなりしを花をもて訪ふ垂乳根の君の母とし語へどこの秋の日に君はあらなくすずろかに鐘うち鳴らししまらくは君のみ靈に香をまつらむ病いゆと昔淋しき旅をせし山の小徑を夢に見しかなやうやくに岫(くき)をめぐりて海を見るこの街道に憩ふ巡禮蝶一つ二つ三ついま下りゆく溪間に見...
門を閉ぢよ心を開け……それで私は表を閉めて裏の垣根を越えてきた蜜柑畠の間を拔けて海よお前の渚にかうして私は一人できたああ陽炎のもえる初夏の小徑眩(めくる)めく砂の上で海よ私は何を考へよう思出のやうにうすぐもつて藍鼠色にぼんやりした遙かなお前の水平線私はお前に向きあつて私は世間に背中を向ける門を閉ぢよ心を開け……それで私は表を閉めて裏の垣根を越えてきた海...
この三月いつぱいで東京都の露店はいよいよ姿を消すことに結着した。
破風をもる煙かすかに水をくむ音はをりふしこの庵に人はすめども日もすがら窓をとざせり自らかう歌つた私の家の海にむかつた窓はその前に藤棚のたふれたのがいつまでもたふれたままで、それが新らしく芽をふき蔓をのばし、白き花房が気ままに咲き乱れる時分になつても、めつたに雨戸を繰つて開け放たれたことがない。
微風晴れ雪の窓に葡萄酒を飮む。
扁舟を湖心に泛べ手艪を放ち箕坐してしばしもの思ふ――願くばかくてあれかしわが詩の境。
その顏が重くなる睡くなる鴨はそれを翼の下にしまひこむその上に雪がふる夢の國への小包。
夕暮の池に鴨が點々風が彼らを片寄せる林の方へ岡の方へ風がやむ彼らは呼んでゐる應へてゐる風の聲よりひそやかに。
人が詩人として生涯ををはるためには君のやうに聰明に清純に純潔に生きなければならなかつたさうして君のやうにまた早く死ななければ!。
ふつくらとした雪の面の疎林の影の美しさここに私は彳ちどまる聖なる正午この丘のほとりにあつて歩み去る時を感ずる旅人の年老いて疲れた心の沈默の憩ひ。
鷲が二羽降りようとして舞つてゐる巖のあらはな巓を私は仰ぎ私はたちどまるその山の肩のあたり林の盡きた笹原に私は籠手を翳し私は逡巡するさてまづ晝餉をしたためる。
どこかで鳥の聲がする雪の山の黄昏時私は一つの尾根に彳つ谿間の宿のランプの灯私の部屋の小さな窗窗に映つた帽子の影あはれあはれそれは思出のやうに見える微かな谿の水の聲。
かいつぶりかいつぶりそうれ頭に火がついた私たちの歌に應へてかいつぶりは水に沈むそれは旱魃の夏だつたただそれだけのことだつたかいつぶりかいつぶりかいつぶりのゐない日もあつた。
行くがいい既に門出の時である行け太陽のもと喧噪のさなかに行け風塵霜露の衢々に行つてお前の運命を試みるべき時である行け片意地な兜蟲か弱い仔雀跛この驢馬憐れなるわが詩の一卷。
夜更けて油の盡きた暗いランプ低い焔煤けた笠既に私の生涯も剩すところはもうわづかああ今しばしものを思はう今しばし私の仕事に精を出さうやがて睡りの時がくる悲しみもなく私の眠る時がくる。
拔足差足忍び寄つた野兎は蓆圍ひの隙間から野菜畑に跳びこんだとたんに係蹄に引かかる南無三とんぼがへりを二つ三つ力まかせに空を蹴る月を蹴る月は山の端に入いるやがて兎は寢てしまふ白菜たちが眼を醒す。
思出思出いつまでも心に住むと誓ひをたてた思出その思出も年をふれば塵となる煙となるああそのかの裏切りの片見なら捉へがたない思出の性も是非ない行くがいい行くがいい私を殘して歸る日もなく行くがいい思出よ。
二羽三羽霧のかかつた水際に黒い小鴨が游いでゐる私は林の小徑を出る――それとなし彼らはくるりと向きをかへるやがて一羽は空に揚る一羽は水の面を飛ぶ一羽はあとに殘される彼は周章てて水を打つ水を打つやつとからだが宙に浮く仲間と違つた方角へ。
山毛欅の林楢の林白樺の林ひと年私は山に住ひ彼らの春の粧ひと彼らの秋の凋落を見たけれども彼らの裸の姿雪の上のたたずまひこそわけても私の心にしみる何故だらうそのことわけを問ひながら今日もまた林に憩ふやうやく私のものとなつたこの手足この老年が珍らしく。
めじろめじろめじろ冬の端山を渡りくるめじろの群れのおしやべりは……それはまるで夏の日の日の暮れ方、とある街角をくる風鈴賣りの、あの毀れ易い硝子の器を百も吊るした、人の肩に擔はれてくる小さな輕い華やかな店さきの、音樂!その商品の一つ一つが互に囁きあつてゐる、ひそやかなれども騷がしい、いつも一つのものでありながら、けれども單調といふのでない、即興歌のより集り。
月やあらぬ春やむかしの春ならぬわが身ひとつはもとの身にして業平かなたなる海にむかひてかしらあげさへづる鳥はこぞの春この木の枝にきて啼きし青鵐のとりかかぐはしきこのくれなゐの梅の花さけるしたかげこれやこのこぞの長椅子古りしままなほくちずしてこぞありしほとりに咲けるはしきやしたんぽぽの花宿をでてもの思ひつつゆくりなくわが來しをかべあづさゆみ春の...
老いらくの身をはるばるとこのあしたわがふるさとゆははそはの母はきたまふおんくるまうまやにつかせたまふにはいとまありけりわれひとりなぎさにいでて冬の日のほのかほのかにあたたかき濱のおほなみひるがへる見つつたのしも眞鶴の崎の巖が根大島のはるけき烟見はるかしゐつつたのしもあはれよないつかその子も皺だたみ老いんとすらんまづしかる旅のすみかにははそはの母はおとな...
かつてわが悲しみはかの丘のほとりにいこへりかつてわが悲しみはかの丘のほとりにいこへり五月またみどりはふかく見よかなたに白き鳥のとぶありおのが身ははやく老いしかこの日また何にいそぐやあてどなき旅のひと日の夕ぐれの汽車のまどべにかの丘はしづかに來りかの丘は來りぬかづく見よかしこになつかしきかの細路は木の間をいゆきめぐりたり見よかしこになつかしきかの細路は木の間をいゆきめぐり...
われながく憂ひに栖みてはやく身は老いんとすらんふたつなきいのちをかくて愚かにもうしなひつるよ秋の日の高きにたちてこしかたをおもへばかなしすぎし日の憂ひならねばあまからぬこの歎きかな見よ彼方日は眞晝藍ふかき海のはるかに眞白なる鴎どりはも一羽ゐてなに思ふらん波の穗にうかびただよふ願はくばわが老いらくの日もかかれ世の外にしてつたなかる心...
白根山寥落として草もなし煙たつ見ゆ白土尾根にほのかなる硫黄のかをり吹きかよへ芳が平の秋風のうち行き行きてかへるときなき心地すれ鳥さへ飛ばぬ白根山路草もなし木もなしされば路もなし湯鳴りさみしき白埴の山ここすぎて人かなしみの國にいる地獄の門ににたる山かなうかりける身に杖つきていまははやもの...
橋の袂の日まはり床屋の裏の日まはり水車小屋の日まはり交番の陰の日まはり頽(くづ)れた築地の上に聳える路ばたの墓地の日まはり丘の上の洒落た一つ家そのまた上の女學校の寄宿舍の庭の日まはりああ日まはり日まはりそれは旺んな季節の洪水七月この海邊の町を不意打してこの小さな町をとりかこみ占領し彼らの眞晝の凱歌をうたふ日まはり日まはり彼方町はづれの踏切にも...
春の計畫粉雪の中で四十雀が啼いてゐる春が眞近にせまつてきた谿間で風が鳴つてゐる楢山毛欅櫟それらの枯葉が雪の上を走つてゐる山山よ裸の木木よ樂しい冬も間もなく冬も終るだらう懷かしい私の友垣風よ雲よ山山よ私達の友情のさて春の計畫を考へようその昔その昔その山のその旅籠へは米も野菜も新聞も煙草も手紙も電報も牛の背中で運んできた谿に臨んだ細路にのつと牝牛が顏を出す午後二時三時山で...
わが古きまづしきうたのたぐひここにとり集へてひと卷のふみをばなしつ、名づけて春の岬といふ、ふみのはじめに感をしるして序を添へよとは人の命ずるところなり、あな蛇足をしひたまふものかな、よしやつたなかるともわがうたのかずかずうちかへしわが感をのべたるものを、とてその夜わびしらに率然とおのれつぶやけるつぶやきわが若き十とせあまりのとしつきのいつしかにはやすぎゆきてあとこそなけれそこばくのうたはのこりつそのなかばいまここにあり...
山雀の嘴(はし)をたたきし板びさしはたやくだりし黄なる枯芝裸木の朴のこずゑはゆれてあれその青空をとぶ雲もなし鴉なく櫟ばやしのあらきみちけうとかりけり陽はてれれどもさねさし相模の山よ來る小鳥たかき空よりまひくだりけりはらはらと空よりくだる小鳥ありやがてかしこにしばなきにけりこの庭は鶲(ひたき)のとりの一羽きてあそぶ庭なりひるをひねもす宵ながら怠りてふすかり臥しの山の...
烏帽子見ゆ四阿[#ルビの「あづま」は底本ではなし]猫見ゆ淺間見ゆわが路ゆかむ日の暮るるまで鎗が嶺によべ雪ふりぬ草枕旅寢の夢をめざめて見れば一の枝二の枝三の枝にふれ何の落葉か地におつる音いくひらの殘りの落葉おつる音落葉林にひびかひにけり黄金なす陽は落ちにけりはやもはや雪の山山藍にかげろふ芋はこぶ車の越ゆ...
棋客の前田陳爾さんに近づきはないが、その囲碁批評はいつも面白く拝見してゐる。
旅行に出て汽車の窓からつと見かける小学校の建もの、その校庭や体操器械など、小さな花壇や鳩小舎など、いつ見かけても心をひかれるもののあるのを覚える。
[#ページの左右中央]短歌集日まはりわが跫音路をうつわが杖の音われは聴くわが生の音づれ[#改ページ][#ページの左右中央]日まはりや床屋しづけき菜園に[#改ページ]やま鳥草生ふる電車線路をあしびきのやま鳥はつと走り越えにき白骨温泉にてうら山に銃の音せり時をへずまたも...
枕上口占もとおのれがさえのつたなければぞ、集ならんとする夜半……私の詩は一つの着手であればいい私の家は毀れやすい家でいいひと日ひと日に失はれるああこの旅のつれづれの私の詩は三日の間もてばいい昨日と今日と明日とただその片見であればいい又私の詩は明け方西の空にある昨日の月やがて地平の向ふに沈む昨...
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