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30分以内で読める山本周五郎の短編作品

青空文庫で公開されている山本周五郎の作品の中で、おおよその読了目安時間が「30分以内」の短編7作品を、おすすめ人気順に表示しています。

(4,001〜12,000文字の作品を対象としています。読了時間は「400字/分」の読書スピードで計算した場合の目安です)
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北向きの小窓のしたに机をすえて「松の花」という稿本に朱を入れていた佐野藤右衛門は、つかれをおぼえたとみえてふと朱筆をおき、めがねをはずして、両方の指でしずかに眼をさすりながら、庭のほうを見やった。
彼は立停って、跼(かが)み、草履の緒のぐあいを直す恰好で、すばやくそっちへ眼をはしらせた。
「どうかしたのか、顔色がすこしわるいように思うが」直輝の気づかわしげなまなざしに加代はそっと頬をおさえながら微笑した。
「いやそうではない」新沼靱負はしずかに首を振った、「……おかやに過失があったとか、役に立たぬなどというわけでは決してない、事情さえ許せばいて貰いたいのだ。
「そういう高価なものは困りますよ、そちらの鮒(ふな)を貰っておきましょう」書庫へ本を取りにいった戻りにふとそういう妻の声をきいて、太宰は廊下の端にたちどまった。
はたはたと舞いよって来たちいさな蛾(が)が、しばらく燭台のまわりで飛び迷っていたと思うと、眼にみえぬ手ではたかれでもしたようにふいと硯海に湛えた墨の上へおち、白い粉をちらしながらむざんにくるくると身もだえをした。
「ちょうど豆腐をかためるようにです」良人の声でそう云うのが聞えた。
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