書き出し
市街に住まっているものの不平は、郊外がドシドシ潰されて、人家や製造場などが建つことである、建つのは構わぬが、ユトリだとか、懐ろぎだとかいう気分が、亡くなって、堪まらないほど窮屈になる、たとえやにこくても、隙間もなく押し寄せた家並びを見ていると、時々気が詰まる、もし人家の傍に、一寸した畠でもあれば、それが如何に些細なものであっても、何だか緩和されるような気になる、そうして庭園のように、他所行きの花卉だの、「見てくれ」の装飾だのがしてないところに、又しようとも思わない無造作のところに、思いさ...
底本
「日本の名随筆17 春」作品社, 1984(昭和59)年3月25日