書き出し
甲府の神尾主膳の邸へ来客があって或る夜の話、「神尾殿、江戸からお客が見えるそうだがまだ到着しませぬか」「女連のことだから、まだ四五日はかかるだろう」「なにしろ有名な難路でござるから、上野原あたりまで迎えの者をやってはいかがでござるな」「それには及ぶまい、関所の方へ会釈のあるように話をしておいたから、まあ道中の心配はあるまいと思う」「関所の役人が心得ていることなら大丈夫であろうが、貴殿御自身に迎えに行く心があったら、近...
底本
「大菩薩峠3」ちくま文庫、筑摩書房, 1996(平成8)年1月24日