書き出し
大丈夫まさに雄飛すべしと、入らざる智慧を趙温に附けられたおかげには、鋤(すき)だの鍬(くわ)だの見るも賤しい心地がせられ、水盃をも仕兼ねない父母の手許を離れて、玉でもないものを東京へ琢磨きに出た当座は、定めて気に食わぬ五大洲を改造するぐらいの画策もあったろうが、一年が二年二年が三年と馴れるに随って、金から吹起る都の腐れ風に日向臭い横顔をだん/\かすられ、書籍御預り申候の看板が目につくほどとなっては、得てあの里の儀式的文通の下に雌伏し、果断は真正の知識と、着て居る布子の裏を剥...
初出
1891年
(「国会新聞」1891(明治24)年)
底本
「日本短篇文学全集 第9巻」筑摩書房, 1969(昭和44)年6月5日