書き出し
廻(まわ)れば大門の見返り柳いと長けれど、お齒(は)ぐろ溝に燈火うつる三階の騷(さわ)ぎも手に取る如く、明けくれなしの車の行來にはかり知られぬ全盛をうらなひて、大音寺前と名は佛(ほとけ)くさけれど、さりとは陽氣の町と住みたる人の申き、三島神社の角をまがりてより是れぞと見ゆる大厦もなく、かたぶく軒端の十軒長屋二十軒長屋、商ひはかつふつ利かぬ處(ところ)とて半さしたる雨戸の外に、あやしき形に紙を切りなして、胡粉ぬりくり彩色のある田樂みるやう、裏にはりたる串のさまもをかし、一軒...
初出
1895年
((一)~(三)「文學界 二十五號」文學界雜誌社、1895(明治28)年1月30日<br>(四)~(六)「文學界 二十六號」文學界雜誌社、1895(明治28)年2月28日<br>(七)~(八)「文...)
底本
「文藝倶樂部第二卷第五編」博文館, 1896(明治29)年4月