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北条民雄の全作品

青空文庫で公開されている北条民雄の全作品45篇を、おすすめ人気順で表示しています。

1〜45件 / 全45件
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駅を出て二十分ほども雑木林の中を歩くともう病院の生垣が見え始めるが、それでもその間には谷のように低まった処や、小高い山のだらだら坂などがあって人家らしいものは一軒も見当たらなかった。
諸君は井戸の中の蛙だと、癩者に向つて断定した男が近頃現れた。
一歩一歩注意深く足を踏みしめて、野村は歩いた。
部屋の中ではかなくうら悲しい日が続く。
何とて我は胎より死にて出でざりしや、何とて胎より出でし時に気息たえざりしや、如何なれば膝ありてわれをうけしや、如何なれば乳房ありてわれを養ひしや、――ヨブ記――詩話会は夜の六時から始まることになつてゐた。
それを見たとたん、秋津栄三はがつくりと膝を折つてそのまま地べたへつき坐つてしまひさうになつた。
急に高まつて来た室内のざわめきに、さつきから、睡るでもなく睡らぬでもない状態でうつらうつらとしてゐた鶏三は、眼を開いた。
十日ほども降り続いた梅雨があけると、おそろしくむし暑い日が続いて、街は、腐敗したどぶ川の悪臭が染み込んでぶくぶくと泡立つてゐるやうに感ぜられた。
私は彼の告白記を紹介する前に、一応私と彼との関係や、間柄を記して置きたいと思ふ。
思へばここ数年来、年あらたまる毎に私の生活は苦痛を増すばかりであつた。
右腕の神経痛が始まつたので、私はここ数日床の中で朝夕を送り迎へてゐる。
高等科二年の多吉は、ある夕方、校門を出るとただ一人きりで家路に向つた。
ここ十日ばかりといふもの、何もせずにぼんやりと机の前に坐つて暮してゐる。
胸までつかる深い湯の中で腕を組んで、私は長い間陶然としてゐた。
都美は、このごろ、夕暮になると、その少年に逢ひに行くのが、癖になつて、少年に逢はない日は、ホツケスに逢ふのも、嫌になつてしまつた。
夕方になると、私はなんとなくじつとしてゐられないので、定つて散歩に出る。
この部屋には東と北とに窓がある。
――美しいものは一番危つかしい。
親父は大酒飲みで、ろくすつぽ仕事もせず毎日酔つぱらつては大道に寝転び、村長でも誰でも口から出まかせに悪口雑言を吐き散らすのが無上の趣味で、母親は毎日めそめそ泣いて、困るんでござります困るんでござりますと愚痴つてばかりゐる意気地なしなのである。
自殺を覚悟するとみな一種の狂人か、放心状態に陥る。
癩文学といふものがあるかないか私は知らぬが、しかしよしんば癩文学といふものがあるものとしても、私はそのやうなものは書きたいとは思はない。
今日は二月の二十七日だ。
太陽はもう山の向うに落ちてしまつたが、まだあたりは明るかつた。
ミコちゃんの小犬は、ほんとうに可愛いものです。
昼でも暗いような深い山奥で、音吉じいさんは暮して居りました。
一号室ではまた盆踊りの練習が始まつた。
「二三年、娑婆の風にあたつて来るよ。
朝、起き上るたびに私は一種不可解な気持をもつてあたりを見廻さずにはゐられない。
昨日MTLで「療養所文芸の発展策その他」について書いた諸氏のものも拝見し、また原田嘉悦氏の雑記をも読んでみた。
いつたいに慢性病はどの病気でも春先から梅雨期へかけて最も悪化する傾向がある。
彼女は非常に秀れた頭脳を持つてゐたのだと僕は思ふよ、これといふ理由はないのだけれど。
第一章霧の深い夜が毎晩のやうに続いた。
水の上あれからもう三年経つた。
第一章朝のうちに神戸港を出帆した汽船浪花丸がひどくたどたどしい足どりで四国のこの小さな港町に着いたのは、もうその日の夕暮であつた。
眼帯記北條民雄ある朝、眼をさましてみると、何が重たいものが眼玉の上に載せられているような感じがして、球を左右に動かせると、瞼の中でひどい鈍痛がする。
霧の夜黒ぐろとうちつづいた雑木林の間から流れ出る夜霧が、月光を浴びて乳色に白みながら見るまに濃度を加へて視野遠く広がつた農園の上を音もなく這ひ寄つて来る。
入院すると、子供を除いて他は誰でも一週間乃至二週間ぐらゐを収容病室で暮さなければならない。
心の中に色々な苦しいことや悩しいことが生じた場合、人は誰でもその苦しみや懊悩を他人に打明け、理解されたいといふ激しい慾望を覚えるのではないだらうか?そして内心の苦しみが激しければ激しいほど、深ければ深いほど、その慾望はひとしほ熾烈なものとなり、時としてはもはや自分の気持は絶対に他人に伝へることは不可能だと思はれ、そのために苛立ち焦燥し、遂には眼に見える樹木や草花やその他一切のものに向つてどなり泣き喚いてみたくすらなるのではあるまいか?少くとも私の経験ではさうであつた。
十個の重病室があり、各室五名づつの附添夫が重病人の世話をしてゐることはさきに記したが、これらの附添夫も勿論病人であり、何時どのやうな病勢の変化があるか解らない。
序章他の慢性病もやはりさうであらうが、癩といへども、罹つたが最後全治不可能とはいへ、忽ちのうちに病み重るといふことはなく、波のやうに一進一退の長い月日を過しつつ、しかし満ちて来る潮のやうに、波の穂先は進んでは退き進んでは退きしつつやがて白い砂地を波の下にしてしまふ。
この病院に入院してから三ヶ月程過ぎたある日、宇津は、この病院が実験用に飼育してゐる動物達の番人になつてはくれまいかと頼まれた。
どんよりと曇つた夕暮である。
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