「レ・ミゼラブル」の翻訳を私が仕上げたのは、ずいぶん以前のことである。
「レ・ミゼラブル」の翻訳を私が仕上げたのは、ずいぶん以前のことである。
妖怪研究は余が数年来従事せるところなるが、近ごろ応用心理学を講述するに当たり、あわせて妖怪の解...
妖怪研究は余が数年来従事せるところなるが、近ごろ応用心理学を講述するに当たり、あわせて妖怪の解釈を下し、ときどき実験をも施しけるに、事実の参考を要するものあれば、館外員諸君よりも事実の御報道にあずかりたく、左に妖怪の性質と種類とを掲記いたし候。
私はもう歌なぞ歌はない誰が歌なぞ歌ふものかみんな歌なぞ聴いてはゐない聴いてるやうなふりだけはす...
私はもう歌なぞ歌はない誰が歌なぞ歌ふものかみんな歌なぞ聴いてはゐない聴いてるやうなふりだけはするみんなたゞ冷たい心を持つてゐて歌なぞどうだつてかまはないのだそれなのに聴いてるやうなふりはするそして盛んに拍手を送る拍手を送るからもう一つ歌はうとするともう沢山といつた顔私はもう歌なぞ歌はないこんな御都合な世の中に歌なぞ歌はない(一九三五・九・一九)。
新年の東京を見わたして、著るしく寂しいように感じられるのは、回礼者の減少である。
新年の東京を見わたして、著るしく寂しいように感じられるのは、回礼者の減少である。
わたしは年少のW君と、旧友のMに案内されながら、久しぶりに先生の書斎へはひつた。
わたしは年少のW君と、旧友のMに案内されながら、久しぶりに先生の書斎へはひつた。
二月二十一日に学位を辞退してから、二カ月近くの今日に至るまで、当局者と余とは何らの交渉もなく打...
二月二十一日に学位を辞退してから、二カ月近くの今日に至るまで、当局者と余とは何らの交渉もなく打過ぎた。
私は知己を百代の後に待たうとしてゐるものではない。
私は知己を百代の後に待たうとしてゐるものではない。
今日は二百二十日だが、九月一日の関東大震災記念日や、二百十日から、この日にかけては、寅彦(とら...
今日は二百二十日だが、九月一日の関東大震災記念日や、二百十日から、この日にかけては、寅彦(とらひこ)先生の名言「天災は忘れた頃来る」という言葉が、いくつかの新聞に必ず引用されることになっている。
旧幕時代には、エタ非人と普通民との通婚は、国法の禁ずるところであった。
旧幕時代には、エタ非人と普通民との通婚は、国法の禁ずるところであった。
われらが書に順ひてその三稜の壇に立ちクラリネットとオボーもて七たび青くひらめける四連音符をつゞ...
われらが書に順ひてその三稜の壇に立ちクラリネットとオボーもて七たび青くひらめける四連音符をつゞけ奏しあたり雨降るけしきにてひたすら吹けるそのときにいつかわれらの前に立ちかなしき川をうち流し渦まく風をあげありしかの逞ましき肩もてる黒き上着はそも誰なりし。
此断腸亭日記は初大正六年九月十六日より翌七年の春ころまで折※鉛筆もて手帳にかき捨て置きしものな...
此断腸亭日記は初大正六年九月十六日より翌七年の春ころまで折※鉛筆もて手帳にかき捨て置きしものなりしがやがて二三月のころより改めて日日欠くことなく筆とらむと思定めし時前年の記を第一巻となしこの罫帋本に写直せしなり以後年と共に巻の数もかさなりて今茲昭和八年の春には十七巻となりぬかぞへ見る日記の巻や古火桶五十有五歳荷風老人書。
自己の心を捕へんと欲する人々に、人間の心を捕へ得たる此作物を奨む。
自己の心を捕へんと欲する人々に、人間の心を捕へ得たる此作物を奨む。
あなたの懐中にある小さな詩集を見せてくださいかくさないで――。
あなたの懐中にある小さな詩集を見せてくださいかくさないで――。
「晩年」も品切になったようだし「女生徒」も同様、売り切れたようである。
「晩年」も品切になったようだし「女生徒」も同様、売り切れたようである。
一、今日の地位に至れる径路政略と云うようなものがあるかどうだか知らない。
一、今日の地位に至れる径路政略と云うようなものがあるかどうだか知らない。
緑の蛙(かえる)と黄色の蛙(かえる)が、はたけのまんなかでばったりゆきあいました。
緑の蛙(かえる)と黄色の蛙(かえる)が、はたけのまんなかでばったりゆきあいました。
きれいなきれいな雪だこと畑も屋根もまつ白だきれいでなくつてどうしませう天からふつてきた雪だもの。
きれいなきれいな雪だこと畑も屋根もまつ白だきれいでなくつてどうしませう天からふつてきた雪だもの。
あるおひゃくしょうやのうらにわにあひるや、がちょうや、もるもっとや、うさぎや、いたちなどがすん...
あるおひゃくしょうやのうらにわにあひるや、がちょうや、もるもっとや、うさぎや、いたちなどがすんでおりました。
火皿は油煙をふりみだし、炉の向ふにはここの主人が、大黒柱を二きれみじかく切って投げたといふふう...
火皿は油煙をふりみだし、炉の向ふにはここの主人が、大黒柱を二きれみじかく切って投げたといふふうにどっしりがたりと膝をそろへて座ってゐる。
本書は、古事記本文の書き下し文に脚註を加えたもの、現代語譯、解説、および索引から成る古事記の本...
本書は、古事記本文の書き下し文に脚註を加えたもの、現代語譯、解説、および索引から成る古事記の本文は、眞福寺本を底本とし、他本をもつて校訂を加えたものを使用した。
村に一人の男があって梨を市に売りに往ったが、すこぶる甘いうえに芳もいいので貴い値で売れた。
村に一人の男があって梨を市に売りに往ったが、すこぶる甘いうえに芳もいいので貴い値で売れた。
さよなら、さよなら!いろいろお世話になりましたいろいろお世話になりましたねえいろいろお世話にな...
さよなら、さよなら!いろいろお世話になりましたいろいろお世話になりましたねえいろいろお世話になりましたさよなら、さよなら!こんなに良いお天気の日にお別れしてゆくのかと思ふとほんとに辛いこんなに良いお天気の日にさよなら、さよなら!僕、午睡の夢から覚めてみるとみなさん家を空けておいでだつたあの時を妙に思ひ出しますさよなら、さよなら!...
けふはえびのように悲しい角やらひげやらとげやら一杯生やしてゐるがどれが悲しがつてゐるのか判らない。
けふはえびのように悲しい角やらひげやらとげやら一杯生やしてゐるがどれが悲しがつてゐるのか判らない。
言文一致に就いての意見、と、そんな大した研究はまだしてないから、寧ろ一つ懺悔話をしよう。
言文一致に就いての意見、と、そんな大した研究はまだしてないから、寧ろ一つ懺悔話をしよう。
或木曜日の晩、漱石先生の処へ遊びに行っていたら、何かの拍子に赤木桁平が頻に蛇笏を褒めはじめた。
或木曜日の晩、漱石先生の処へ遊びに行っていたら、何かの拍子に赤木桁平が頻に蛇笏を褒めはじめた。
『惡少年を誇稱す糜爛せる文明の子』諸君試みに次に抄録する一節を讀んで見たまへ。
『惡少年を誇稱す糜爛せる文明の子』諸君試みに次に抄録する一節を讀んで見たまへ。
『あきらめ』ということほど言い易くして行い難いことはない。
『あきらめ』ということほど言い易くして行い難いことはない。
いっぽんの木と、いちわの小鳥とはたいへんなかよしでした。
いっぽんの木と、いちわの小鳥とはたいへんなかよしでした。
雪の野原の中に、一条のレールがあつて、そのレールのずつと地平線に見えなくなるあたりの空に、大き...
雪の野原の中に、一条のレールがあつて、そのレールのずつと地平線に見えなくなるあたりの空に、大きなお月様がポツカリと出てゐました。
私の作品はたいがいそうであるが、特にこの「冒した者」では「現代」そのものが直接的に主題になり主...
私の作品はたいがいそうであるが、特にこの「冒した者」では「現代」そのものが直接的に主題になり主人になっている作品である。
くるくるくるくる、ぐるぐるぐるぐる、そのお人形はさっきから眼がまわって気分がわるくなっているの...
くるくるくるくる、ぐるぐるぐるぐる、そのお人形はさっきから眼がまわって気分がわるくなっているのでした。
謹奏田中正造※[#丸印、U+329E、5-4]草莽ノ微臣田中正造誠恐誠惶頓首頓首謹テ奏ス。
謹奏田中正造※[#丸印、U+329E、5-4]草莽ノ微臣田中正造誠恐誠惶頓首頓首謹テ奏ス。
誰でもわたしのやうだらうか?――ジュウル・ルナアル僕は屈辱を受けた時、なぜか急には不快にはならぬ。
誰でもわたしのやうだらうか?――ジュウル・ルナアル僕は屈辱を受けた時、なぜか急には不快にはならぬ。
一、ペンネンノルデが七つの歳に太陽にたくさんの黒い棘(とげ)ができた。
一、ペンネンノルデが七つの歳に太陽にたくさんの黒い棘(とげ)ができた。
街はいくさがたりであふれどこへいっても征くはなし勝ったはなし三ヶ月もたてばぼくも征くのだけれど...
街はいくさがたりであふれどこへいっても征くはなし勝ったはなし三ヶ月もたてばぼくも征くのだけれどだけどこうしてぼんやりしているぼくがいくさに征ったなら一体ぼくはなにするだろうてがらたてるかなだれもかれもおとこならみんな征くぼくも征くのだけれど征くのだけれどなんにもできず蝶をとったり子供とあそんだりうっかりしていて戦死するかしらそんなまぬけなぼくなのでどうか人なみにいくさが...
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