書き出し
※虫干すとてかびくさき反古どもあまた取出しける中に、故兄が殘したるくさ/″\の筆記あり、ことこまかにしるしとゝ((ゞ))めたるさま、これはそれの夏、腦の病ひおこらんとせし前の月こゝろをとゝ((ゞ))めて物しつるなり、今かたつかたハ霜こほる冬のよ、毎よさかならず父母が寐間をうかゝ((ゞ))ひて裾に物をおき、襖のたてつけをあらためし頃ほひ、今宵ハいと寒きに早く寐よかし風もぞ引くと母の仰せつるに、承りぬとて※反古しら...
底本
「樋口一葉全集 第三卷(下)」筑摩書房, 1978(昭和53)年11月10日