書き出し
さてこれは外題を心眼と申す心の眼といふお話でござりますが、物の色を眼で見ましても、只(たゞ)赤のでは紅梅か木瓜の花か薔薇(ばら)か牡丹か分りませんが、ハヽア早咲の牡丹であるなと心で受けませんと、五色も見分が付きませんから、心眼と外題を致しましたが、大坂町に梅喜と申す針医がございましたが、療治の方は極下手で、病人に針を打ちますと、それがためお腹が痛くなつたり、頭痛の所へ打ちますと却て天窓が痛んだり致しますので、あまり療治を頼む者はありません。
底本
「明治の文学 第3巻 三遊亭円朝」筑摩書房, 2001(平成13)年8月25日