60分以内で読める小栗虫太郎の中編作品

一、髪を切られる少女（方子からの手紙）末起ちゃん、お手紙有難う。

一、堕天女記湯の町Ｋと、汀から十丁の沖合にある鵯島との間に、半ば朽ちた、粗末な木橋が蜿蜒と架っている。

一、尾彦楼の寮に住む三人のこと並びに老遊女二つの雛段を飾ることなんにしろ明治四十一年の事とて、その頃は、当今の接庇雑踏とは異なり、入谷田圃にも、何処かもの鄙（ひな）びた土堤の悌（おもかげ）が残っていた。

竜宮から来た孤児前作「天母峯」で活躍した折竹孫七の名を、読者諸君はお忘れではないと思う。

リオの軽口師折竹孫七が、ブラジル焼酎の“Pinga（ピンガ）”というのを引っさげて、私の家へ現われたのが大晦日の午後。

魔境からの使者――折竹氏、中央亜細亜へゆく。

死体、橇を駆る※いよいよ本篇から、魔境記も大ものばかりになってくる。

神踞す「大聖氷」わが折竹孫七の六年ぶりの帰朝は、そろそろ、魔境、未踏地の材料も尽きかけて心細くなっていた私にとり、じつに天来の助け舟のようなものであった。