書き出し
小金井の桜の堤はどこまでもどこまでもつづくもうあと三四日という蕾の巨きな桜のまわりはきれいに掃除され、葭簀張りののれんにぎやかな臨時の店店は花見客を待ちこがれているよう私の寝台自動車はその堤に添うて走る春めく四月、花の四月私は生死をかけて、むしろ死を覚悟して療養所へゆくすでに重症の患者となった私はこれから先の判断を持たない恐らく絶望であろうとは医師数人の言ったところ農民の家がつづく古い建物が多く...
初出
1935年
(「詩精神」1935(昭和10)年6月号)
底本
「日本プロレタリア文学集・39 プロレタリア詩集(二)」新日本出版社, 1987(昭和62)年6月30日