書き出し
眠れやはらかに青む化粧鏡のまへでもはやおまへのために鼓動する音はなくあの帽子の尖塔もしぼみ煌めく七色の床は消えた哀しく魂の溶けてゆくなかではとび歩く軽い足どりも不意に身をひるがへすこともあるまいにじんだ頬紅のほとりから血のいろが失せて疲れのやうに羞んだままおまへは何も語らないあるるかんよ空しい喝采を想ひださぬがいいいつまでも耳や肩にのこるものがあつただらうか眠るがいいや...
初出
1941年
(「詩集」1941(昭和16)年7月)
底本
「増補 森川義信詩集」国文社, 1991(平成3)年1月10日