書き出し
友よ覚えてゐるだらうか青いネクタイを軽く巻いた船乗りのやうにさんざめく街をさまよふた夜の事を――鳩羽色のペンキの香りが強かつたね二人はオレンジの波に揺られたねお前も少女のやうに胸が痛かつたんだろ?友よあの夜の街は新しい連絡船だつたよ窓といふ窓の灯がパリーより美しかつたのを昨日の虹のやうにぼくは思ひ出せるんだそれから又お前の掌と言葉と瞳とがブランデーのやうにあたたかく燃えた事も友よお前は知ら...
初出
1937年
(「ルナ 6集」1937(昭和12)年9月)
底本
「増補 森川義信詩集」国文社, 1991(平成3)年1月10日