書き出し
扉や窓を濡し支柱や車輪を濡し出ていつた音よ仄かな調和のどこにも響はすでに帰らない色彩はなく無表情の翳がうかびしづかな匂ひがひろがり脱落するシヤツのあとにはあやまちのごとく風が立つた柱廊はひきつり手すりはくづれ静止した平面は静止した曲面とともにいちぢるしく暮れたきびしく遅速をかぞへる時差のそとに屹立する実体もまたひとつの影像である壊れた通路を...
初出
1940年
(「る・ばる 廿二輯」1940(昭和15)年4月30日)
底本
「増補 森川義信詩集」国文社, 1991(平成3)年1月10日