書き出し
其木理美しき槻胴、縁にはわざと赤樫を用ひたる岩畳作りの長火鉢に対ひて話し敵もなく唯一人、少しは淋しさうに坐り居る三十前後の女、男のやうに立派な眉を何日掃ひしか剃つたる痕の青※(みは)と、見る眼も覚むべき雨後の山の色をとゞめて翠(みどり)の※(みは)ひ一トしほ床しく、鼻筋つんと通り眼尻キリヽと上り、洗ひ髪をぐる/\と酷く丸めて引裂紙をあしらひに一本簪でぐいと留めを刺した色気無の様はつくれど、憎いほど烏黒にて艶ある髪の毛の一ト綜(ふさ)二綜後れ乱れて、浅黒いながら...
初出
1891年
(「国会新聞」1891(明治24)年11月~1892(明治25)年4月)
底本
「日本現代文學全集 6 幸田露伴集」講談社, 1963(昭和38)年1月19日