人にいやなんですあなたのいつてしまふのが――花よりさきに実のなるやうな種子よりさきに芽の出るや...
人にいやなんですあなたのいつてしまふのが――花よりさきに実のなるやうな種子よりさきに芽の出るやうな夏から春のすぐ来るやうなそんな理窟に合はない不自然をどうかしないでゐて下さい型のやうな旦那さまとまるい字をかくそのあなたとかう考へてさへなぜか私は泣かれます小鳥のやうに臆病で大風のやうにわがままなあなたがお嫁にゆくなんていやなんですあなたのいつてしまふのが――...
妻智恵子が南品川ゼームス坂病院の十五号室で精神分裂症患者として粟粒性肺結核で死んでから旬日で満...
妻智恵子が南品川ゼームス坂病院の十五号室で精神分裂症患者として粟粒性肺結核で死んでから旬日で満二年になる。
僕は江戸時代からの伝統で総領は親父の職業を継ぐというのは昔から極っていたので、子供の時から何を...
僕は江戸時代からの伝統で総領は親父の職業を継ぐというのは昔から極っていたので、子供の時から何を職業とするかということについて迷ったことはなかった。
私が永年の欧洲留学を終えて帰朝したのは、たしか一九一〇年であった。
私が永年の欧洲留学を終えて帰朝したのは、たしか一九一〇年であった。
芸術上でわれわれが常に思考する永遠という観念は何であろう。
芸術上でわれわれが常に思考する永遠という観念は何であろう。
○岩手県というところは一般の人が考えている以上にすばらしい地方だということが、来て住んでみると...
○岩手県というところは一般の人が考えている以上にすばらしい地方だということが、来て住んでみるとだんだんよく分ってきました。
精神病者に簡単な手工をすすめるのはいいときいてゐたので、智恵子が病院に入院して、半年もたち、昂...
精神病者に簡単な手工をすすめるのはいいときいてゐたので、智恵子が病院に入院して、半年もたち、昂奮がやや鎮静した頃、私は智恵子の平常好きだつた千代紙を持つていつた。
例の MONTMARTRE の珈琲店で酒をのんで居る。
例の MONTMARTRE の珈琲店で酒をのんで居る。
いつたん此世にあらわれた以上、美は決してほろびない。
いつたん此世にあらわれた以上、美は決してほろびない。
私は美術のことに從つてゐる者なので、この世の美について常に心を用ゐざるを得ない。
私は美術のことに從つてゐる者なので、この世の美について常に心を用ゐざるを得ない。
装幀美の極致は比例にあるといふのが私の持論である。
装幀美の極致は比例にあるといふのが私の持論である。
飛行家が飛行機を愛し、機械工が機械を愛撫するように、技術家は何によらず自分の使用する道具を酷愛...
飛行家が飛行機を愛し、機械工が機械を愛撫するように、技術家は何によらず自分の使用する道具を酷愛するようになる。
詩の講座のために詩について書いてくれというかねての依頼でしたが、今詩について一行も書けないよう...
詩の講座のために詩について書いてくれというかねての依頼でしたが、今詩について一行も書けないような心的状態にあるので書かずに居たところ、編集子の一人が膝づめ談判に来られていささか閉口、なおも固辞したものの、結局その書けないといういわれを書くようにといわれてやむなく筆をとります。
私はさきごろミケランジェロの事を調べたり、書いたりして数旬を過ごしたが、まったくその中に没頭し...
私はさきごろミケランジェロの事を調べたり、書いたりして数旬を過ごしたが、まったくその中に没頭していたため、この岩手の山の中にいながらまるで日本に居るような気がせず、朝夕を夢うつつの境に送り、何だか眼の前の見なれた風景さえ不思議な倒錯を起して、小屋つづきの疎林はパリのフォンテンブロオの森かと思われ、坂の上の雪と風とに押しひしがれてそいだような形になっている松の木はあのローマの傘松を聯想させ、見渡すかぎりの清水野のゆるい起伏はローマ郊外のいわゆるカムパーニヤロマーノの展望にさえ見えるのであった。
平凡社の今度の「書道全集」は製版がたいへんいいので見ていてたのしい。
平凡社の今度の「書道全集」は製版がたいへんいいので見ていてたのしい。
九代目市川団十郎は明治三十六年九月、六十六歳で死んだ。
九代目市川団十郎は明治三十六年九月、六十六歳で死んだ。
私自身のやつてゐるのは開墾などと口幅つたいことは言はれないほどあはれなものである。
私自身のやつてゐるのは開墾などと口幅つたいことは言はれないほどあはれなものである。
私は自分で生きものを飼う事が苦手のため、平常は犬一匹、小鳥一羽も飼っていないが、もともと鳥獣虫...
私は自分で生きものを飼う事が苦手のため、平常は犬一匹、小鳥一羽も飼っていないが、もともと鳥獣虫魚何にてもあれ、その美しさに心を打たれるので、街を歩いていると我知らず小鳥屋の前に足をとめる。
この頃は書道がひどく流行して来て、世の中に悪筆が横行している。
この頃は書道がひどく流行して来て、世の中に悪筆が横行している。
能はいはゆる綜合芸術の一つであるから、あらゆる芸術の分子がその舞台の上で融合し展開せられる。
能はいはゆる綜合芸術の一つであるから、あらゆる芸術の分子がその舞台の上で融合し展開せられる。
わたしは雪が大好きで、雪がふってくるとおもてにとび出し、あたまから雪を白くかぶるのがおもしろく...
わたしは雪が大好きで、雪がふってくるとおもてにとび出し、あたまから雪を白くかぶるのがおもしろくてたまらない。
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