豊島与志雄の全作品（3ページ目）

都会に於ける中流婦人の生活ほど惨めなものはない。

或る男が、次のようなことを私に打明けた。

現今の少年は、非常に明るい眼をもっている、空想は空想として働かしながらも、事実のあるがままの姿を、大袈裟に云えば現実を、じっと眺めそして見て取るだけの視力をもっている。

Ｓ君が私に次のような話をしてきかした。

猫好きな人は、犬をあまり好かない。

一九四五年八月六日午前八時十五分、広島市中央部の上空に世界最初の原子爆弾が炸裂してから、四年数ヶ月になる。

「金魚を見ると、僕はある春の一日のことを思い出して、いつも変な気持になる、」と云ってＳが話したことを、そのまま三人称に書き下したのが、次の物語りである。

むかし、インドに、ターコール僧正というえらいお坊さまがいました。

芸術上の作品は、一方に於ては作者に即したものであり、他方に於てはそれ自身独立したものである。

文学の中に吾々は、種々の意味で心惹かるる人物を沢山持っている。

バラックに住む人々よ、諸君は、バラックの生活によって、云い換えれば、僅かに雨露を凌ぐに足るだけの住居と、飢渇を満すに足るだけの食物と、荒凉たる周囲の灰燼と、殆んど着のみ着のままの自分自身と、其他あらゆる悲惨とによって、初めて人間の生活というものを、本当に知ったに――感じたに違いない。

私は蓮が好きである。

小説の書かれたる内容が問題となってもいい位に、吾国の小説界は進んでいると思う。

大きな工場のかたすみに、倉庫があります。

横光利一氏の「紋章」のなかには、「私」という言葉で現わされてる一人の文学者が出てくる。

杭州へ行った人は大抵、同地の芝原平三郎氏の存在に気付くであろう。

寝台車に一通り荷物の仕末をして、私は食堂車にはいっていった。

外出間際の来客は、気の置けない懇意な人で、一緒に外を歩きながら話の出来る、そういうのが最もよい。

ある港町の、港と停車場との間の、にぎやかな街路に、市郎の店はありました。

うしろに山をひかえ前に広々とした平野をひかえてる、低いなだらかな丘の上に、小さな村がありました。

ある大都会の大通りの下の下水道に、悪魔が一匹住んでいました。

コーカサスに、一匹の大きな禿鷹（はげたか）がいました。

私は初め、父と母とのことを書くつもりだった。

むかし、ある山裾に、小さな村がありました。

或る田舎に母と子とが住んでいた。

むかし印度のある国に、一人の王子がありました。

廃墟のなかに、そしてその上に、打ち建てられるであろう建築は、新らしい様式のものであらねばなるまい。

吾々は多くの偶像を持っている。

ある夏、大変なひでりがしました。

叔父達が新らしい家へ移転してすぐに、叔父は或る公務を帯びて、二ヶ月ばかり朝鮮の方へ旅することになりました。

坪井君は丹波の人である。

芸術上の作品は、必ずその作者の心境を宿す。

今のように世の中が開けていないずっと昔のことです。

むかし、台湾の南のはじの要害の地に、支那の海賊がやつてきて、住居をかまへましたので、附近の住民はたいへん困りました。

おうさむこさむやまからこぞうがないてきたなーんとてないてきたさむいとてないてきた。

或（あ）る山奥の村に、八太郎といふ独者がゐました。

或るところに、元という長者がありました。

十一谷君とは大正十年以來の交誼を得ていたが、その間の十一谷君と切り離せないものは、碁、麻雀、煙草、古い反故るい……。

大正七年八月十六日夜――私は神保町から須田町の方へ歩いて行った。

筑後川右岸の、平坦な沃野である。

近頃、文壇に懐古的気分が起ってきているのが眼につく。

人の生活には、一の方向が必要である。

楊先生――私達の間では彼はいつもそう呼ばれた。

むかし、ある片田舎の村外れに、八幡様のお宮がありまして、お宮のまわりは小さな森になっていました。

親疎さまざまの程度の友人達のことをぼんやり考えてみて、そのうちから、思い出すままの断片的印象を書き綴ってみることにする。

青島水族館は全く名ばかりのちっぽけなものであるが、ここの硝子の水槽のなかに、ウマヅラハギというおかしな魚が一匹いる。

――癖というのか、習慣というのか、へんなことが知らず識らずに身についてくる。

植村諦君の詩集「異邦人」は、近頃読んだもののうちで、感銘深いものの一つだった。

文学は真実なものであらねばならぬこと、勿論である。

田舎の旧家には、往々、納戸の隅あたりに、古めかしい葛籠が、埃のなかに置き忘れられてることがある。