豊島与志雄の全作品（4ページ目）

過日、あの男に逢った時、私は深い寂寥に沈んでいた。

先年、Ｂ君が突然死んだ。

高千穂峰はよい山である。

美しい木立、柔かな草原、自然の豊かな繁茂の中に、坦々たる街道が真直に続き、日は麗わしく照っている。

広い病室。

大平野の中で、吾々は或る錯覚を持つことが多い。

昔ペルシャの国に、ハムーチャという手品師がいました。

馬方の三吉というよりも、のっぽの三公という方が分り易かった。

正覚坊というのは、海にいる大きな亀のことです。

ある田舎の山里に、甚兵衛という馬方がいました。

作品の活力は、中に盛られてる作者の生活的翹望から来る、ということが説かれる。

むかし、トルコに、ハボンスといふ手品師がゐました。

フランス大革命を頂点とする十八世紀より十九世紀への一大転向、隷属的封建制度の瓦解と自由統一的立憲制度の成育とは、新世界をもたらすものと考えられていた。

寡黙の徳を讃えるのは、東洋道徳の一つであり、西洋道徳の一微分でもある。

戦争は終ったが、平和は到来しなかった。

十一月の或る晴れた朝だった。

優れた作品にじっと眼を注ぐ時、いろいろな想念が浮んでくる。

ぼんやりしていた心地を、ふいに、見覚えのある町角から呼び醒されて、慌てて乗合自動車から飛び降りた。

むかし、ある所に大きな村がありました。

祖母はいつも綺麗でした。

四月から五月へかけた若葉の頃、穏かな高気圧の日々、南西の微風がそよそよと吹き、日の光が冴え冴えとして、着物を重ねても汗ばむほどでなく、肌を出しても鳥肌立つほどでなく、云わば、体温と気温との温差が適度に保たれる、心地よい暖気になると、私は云い知れぬ快さを、身内にも周囲にも感じて、晴れやかな気分に包まれてしまった。

正夫よ、君はいま濃霧のなかにいる。

今になって、先ず漠然と思い起すのは、金網のなかの仔猿のことである。

電車通りから狭い路地をはいると、すぐ右手に一寸小綺麗な撞球場があった。

木村は云う――。

私の故郷の村中に、ちょっと無気味な隘路がある。

雷が近くに落ちたからといって、人の心は俄に変るものではありますまい。

高度文化国建設のため、今や新たな出発をなさなければならない時に当って、吾々は三木清の知性を想う。

公園と言うには余りに狭く、街路に面した一種の広場で、そこの、篠懸の木の根本に、ベンチが一つ置かれていた。

壁と天井が白く塗ってあるので、狭い屋内は妙に明るく見えるが、数個の電灯の燭光はさほど強くない。

お月様の中で、尾のない鳥が、金の輪をくうわえて、お、お、落ちますよ、お、お、あぶないよ。

むかし、ある田舎の小さな町に、甚兵衛といういたって下手な人形使いがいました。

旅にあって、吾々は、山川の美のみに満足する風流気から、よほど遠くにある。

上海の顔貌はなかなか捉え難い。

その日私は、鎌倉の友人の家で半日遊び暮して、「明日の朝から小説を書かなければならない」ので、泊ってゆけと勧められるのを無理に辞し去って、急いで停車場へ駆けつけ、八時四十何分かの東京行きの汽車に、発車間際に飛び乗った。

久保田さんは、六十歳で某大学教授の職を辞して以来、いつしか夜分に仕事をする習慣がついてしまった。

「久七、お前が好きな物持って来ただよ。

草光保治は、戦時中に動員されて外地へ渡り、終戦後復員されて、二ヶ年半ぶりに［＃「二ヶ年半ぶりに」は底本では「二ヶ月半ぶりに」］東京へ戻ってきました。

佐伯八重子は、戦争中、息子の梧郎が動員されましてから、その兵営に、二回ほど、面会に行きました。

「おじさん、砂糖黍たべようか。

一本のヘヤーピン、ではない、ただヘヤーピン一本、そのことだけがすっきりと、俺の心に残ったのは、何故であろうか。

終戦後、東京都内にも小鳥がたいへん多くなった。

ある田舎に、阮という豪族の一家がありました。

男嫌いだと言われる女もあれば、女嫌いだと言われる男もある。

終戦の年の暮、父の正吉が肺炎であっけなく他界した後、山川正太郎は、私生活のなかに閉じこもりました。

男ぎらいと、ひとは私のことを言うけれど、そうときまったわけのものではありません。

池、といっても、台地の裾から湧き出る水がただ広くたまってる浅い沼で、その片側、道路ぞいに、丈高い葦が生い茂り、中ほどに、大きな松が一本そびえている。

お父さん、御免なさい。

遠い昔のことですが、インドの奥に小さな王国がありました。

訳者改訳の筆を擱（お）くに当たって、私は最初読者になした約束を果たさなければならない。