30分以内で読める青空文庫の短編作品（72ページ目）

若者は、小さいときから、両親のもとを離れました。

かず子さんが、見せてくれた紅い貝は、なんという美しい色をしていたでしょう。

作陶への情熱なにしろ根がずぶの素人の陶作家、固より何の教養もあろうはずもなく、はじめは随分気のひけたものである。

その頃私はその朽ちて墜ちさうな二階の窓から、向側に見える窓を眺めることがあつた。

元和寛永のころというと、今から三百二三十年前のことだが、切支丹が迫害されておびたゞしい殉教者があったものだ。

今からもう二十一二年昔、築地の方に、Ｓと云う女学校がありました。

「一刀流神傳無刀流開祖從三位山岡鐵太郎門人」「鹿島神傳直心影流榊原建吉社中東京弘武會員」といふ長々しい肩書のついた田舍廻りの撃劍遣ひの興行があるといふので理髮床や辻々の茶店に至るまでビラが下つた、撃劍の興行といふのが非常に珍らしいのにその中には女の薙刀つかひが居るといふのと、誰でも飛入の立合ができるといふのと、女の薙刀つかひを打負したものには銀側時計を呉れるといふことゝで界隈の評判になつた、興行の日は舊の三月三日で桃の節句をあて込みであつたが、生憎その日の空が怪しかつたので次の日へ日おく...

有りうべからざる奇怪のことこの世には、とても有り得まいと思はれることが、往々有りうるのである。

櫓太鼓にフト目をさまし、あすは……といふけれども、昔ぼくが成人した家は、風の加減で東から大川を渡つてとうとうと回向院の櫓太鼓が聞えたものだつた。

元の末に方国珍という者が浙東の地に割拠すると、毎年正月十五日の上元の夜から五日間、明州で燈籠を点けさしたので、城内の者はそれを観て一晩中遊び戯れた。

八月廿八日星晴れの空はうつくしかつた、朝露の道がすが／＼しい、歩いてゐるうちに六時のサイレンが鳴つた、庵に放つたらかしい（マヽ）おいた樹明君はどうしたか知ら！駄菓子のお婆さんが、よびとめて駄菓子を下さつた。

たとえばこの雑誌も「文化集団」という名をもっているように、われわれの見ききする範囲には非常に多く文化という言葉が使われ、卑近な一例をとれば、アンカにまで文化という名をつけてあやしまないようになっている。

「抒情歌」について――その美の実質――二月号の『中央公論』に、川端康成の「抒情歌」という小説がのっている。

拝啓。

上田豊吉がその故郷を出たのは今よりおおよそ二十年ばかり前のことであった。

つまらないことから、えて大喧嘩になる。

一、新劇と旧劇現今、芝居好きと称する人のうちで、旧劇はつまらないと云つて見に行かない人もあるでせう。

法医学者の不平を話せ。

見るさえまばゆかった雲の峰は風に吹き崩されて夕方の空が青みわたると、真夏とはいいながらお日様の傾くに連れてさすがに凌（しの）ぎよくなる。

（満里子の手帳から――）冬のお休みになつたら今年もまた兄さん達といつしよに赤倉のスキーへ行くことを、あんなに楽しみにしてゐたのに、いざとなつたら母さんが何うしてもあたしだけを許して下さらないのだ。

田端の高台からずうっとおりて来て、うちのある本郷の高台へのぼるまでの間は、田圃だった。

せっかくおいで下さいましたのに、何もおかまい出来ず、お気の毒に存じます。

「――黄大癡といえば、大癡の秋山図をご覧になったことがありますか？」ある秋の夜、甌香閣を訪ねた王石谷は、主人の※南田（うんなんでん）と茶を啜（すす）りながら、話のついでにこんな問を発した。

これは私が十七の時の話です。

［＃ページの左右中央］人三人の楽人仮面のやうに顔をつくる井戸の守り仮面のやうに顔をつくる老人仮面をかぶる青年仮面をかぶるアイルランド英雄時代［＃改ページ］舞台は何処でも差支ない、何もないあき場、正面の壁の前に模様ある衝立を立てる。

先だって久しぶりに小宮さんと会った時、何かの拍子に露伴先生の話が出た。

ヘルマン・ヘッセの「車輪の下」（岩波文庫・高橋健二氏訳）は、ヘッセの作品のなかでも多くの人々に愛読されているものだろうと思う。

源氏物語は、一口に言えば、光源氏を主人公として書かれた物語である。

文学の方法論的研究が、近頃やうやく一部の人々の注意を、惹くやうになつて来た。

花火といふ遊びは、金を飛散させてしまふところに多分の快味があるのだから、經濟の豐なほど豪宕壯觀なわけだ。

翼賛会の文化部としては、現在まで政府が実行して来た文化政策といふものゝ全体に亘つて、一応どういふことが今日までなされて来てをり、またそれがどういふ結果を生んでゐるか、更にまた政府がどういふ方向に導いてくれゝば、一層国民全体の間に文化が向上するか、さういふやうな問題に就て研究をしてをります。

昭和九年九月十三日頃南洋パラオの南東海上に颱風の卵子らしいものが現われた。

人類の間に存する種々なる集団の根本的差異を論ずるあらゆる政治及び経済上の学説、階級と種族の差異、女権と男権とを画する全ての人工的境界線などいふ様々なものが在るにもかゝはらず、この様な色々な差異が次第に成長して何時か完全な一つのものとなるの日が来るといふ確信を私が抱いてゐる者であるといふことを了め含んで置いて頂きたい。

門鑑を立っている白服にかえして前の往来へ出ると、ひどいぬかるみへ乱暴に煉瓦の破片をぶちこんで埋めたまま乾きあがっている埃っぽい地面とギラギラした白雲との間から、蒸れかえった暑気が道子の小柄な体をおし包んだ。

小説の文章を他の文章から区別する特徴は、小説のもつ独特の文章ではない。

倉庫ぼくほど不幸なものが、またと世の中にあろうか。

「ね、お祖母さん――」半分あまつたれるやうな口調で彼は、もぐ／＼云はせながら祖母の炬燵の中へ割込むで行つた。

私たちのまわりには何と沢山の本があることだろう。

おん祭りの今と昔と春日のおん祭りに関しては、一番参考になるのは「嘉慶元年春日臨時祭記」のやうです。

かうと思つたらどうしてもそのことをやり遂げないと承知できない人物がゐる。

ことしの梅雨も明けて、温泉場繁昌の時節が来た。

一九一四年の夏は、ピエール・キュリー街にラジウム研究所キュリー館ができ上ってキュリー夫人はそこの最後の仕上げの用事と、ソルボンヌ大学の学年末の用事とで、なかなか忙がしかった。

私が数学史の研究に着手したのは、明治三十八年のことであった。

夏場の市はからきし不景気で、申ツ半時分だと露天の日覆の影もそう長くは延びていない頃だのに、衢（みち）は人影もまばらで、熱い陽あしがはすかいに背中を焙（あぶ）るばかりだった。

病母と弟を抱えてお手紙拝見しました。

兎の耳はだてについているものじゃないという話をこの頃聞いて大変面白かった。

都会の者だって夫婦げんかはする。

予は越後三条の生れなり。

『和訓栞』に依れば蓑（みの）の語源は「身荷の義なるべし」とある。

北緯百十三度一分、東経二十三度六分の地点において、楊（ヤン）博士はしずかに釣糸を垂れていた。